廃プラスチックの現在(1)

2023.03.24

●廃プラスチックに自然界が悲鳴を上げています

 

身の回りのいろんなところでプラスチックは使われています。安価でとても便利ですが、ごみとして海や河川に流れ出てしまうと、数千年にわたって自然分解されず漂い続けます。しっかりと回収して、ごみ処理施設などに行くものは問題ないのですが、外に捨てられてしまい、長期間放置される中で細かく砕かれて小さくなってしまうと、見つけることも難しい状況になってしまいます。そのなかでも、5mm以下になったものは「マイクロプラスチック」と呼ばれ、回収が困難なことはもちろん、魚や鳥などの生き物の体内にも入り、海洋汚染や生態系への影響も問題となってしまいます。今回の特集では、回収されずに自然界に出てしまう「廃プラスチック」について、様々な視点から考えてみましょう。

 

 

●クジラが教えてくれる環境破壊

 

2018年8月、神奈川県鎌倉市の由比ガ浜にシロナガスクジラの赤ちゃんの死骸が打ち上げられたことが、テレビや新聞などのメディアで一斉に報じられました。赤ちゃんとはいえ体長は10m52cm、生後3か月から半年ほどと見られるオスでした。日本の海岸にシロナガスクジラが漂着した記録が過去にはないので、それだけでも大きなニュースですが、ショッキングだったのは、その体内からプラスチックごみが発見されたことです。国立科学博物館などの専門家が赤ちゃんクジラの体を詳しく調べた結果、胃の中から折り畳まれた状態で、3cm四方ほどの大きさのプラスチック片が見つかったそうです。解剖した専門家によると、このクジラは母乳しか飲んでいない時期だったと推定され、餌をとろうとして飲み込んだのではなく、泳いでいる間に誤って飲み込んだと見られます。胃の中から見つかったプラスチック片は、死因とは直接の関係はないと見られるものの、専門家は「年間100件くらい生物を調査しているが、子どもの個体の胃からプラスチックが見つかることはあまりない。母乳しか飲んでいない赤ちゃんクジラの体内から見つかることは非常にショックで、それだけ海にプラスチックが浮かんでいることが分かる」と指摘しています。

海を浮遊するプラスチックごみを、生物が誤って飲み込んでしまうという事例は、世界各地で起きています。2018年2月にはスペイン南東部の海岸に打ち上げられたマッコウクジラの胃と腸から、合わせて29kgのプラスチック製の袋やペットボトルなどが見つかりました。こちらの死因は、腹部の感染症である腹膜炎と診断。飲み込んだごみを消化できず、消化器が破裂したと思われます。また、同5月にはタイ南部の海岸に打ち上げられて死んだクジラの胃の中から、80枚余りのプラスチック製の袋が見つかりました。現地の専門家はプラスチックを大量に飲み込んだため、必要な栄養を摂取できなくなり、衰弱して死んだのではないかと分析しています。

 

-参考-
日本経済新聞 
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33847010W8A800C1000000/

毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20180901/k00/00e/040/249000c
朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASL864CQDL86ULOB00F.html
国立科学博物館
https://www.kahaku.go.jp/research/db/zoology/marmam/blue_whale2018/index.php
CNN
https://www.cnn.co.jp/fringe/35117629.html
CNN
https://www.cnn.co.jp/fringe/35120205.html

 
 

●廃プラスチックが及ぼす影響

 

ひとつひとつは小さな廃プラスチックですが、引き起こす問題は決して小さくありません。海の中を漂っているので回収が極めて困難なうえ、プラスチックは分解されないので半永久的に漂い続けます。また、プラスチックの表面には細かな凹凸があり、有害な化学物質を吸着しやすい性質を持っていたり、プラスチック自体にも添加剤が使用されており、その添加剤が海洋汚染の原因ともつながっています。これらの課題については、以前から警鐘は鳴らされていましたが、明確な解決策はいまだに見出せていなのが現状です。

 
廃プラスチックが及ぼす第一の問題に挙げられるのは、前述の通り海洋生物の生態系破壊です。魚類、甲殻類、貝類のほか、カモメなどの海鳥やアザラシなどの海洋哺乳類も海水に混ざったマイクロプラスチックをエサと間違えて食べてしまいます。体内に入ると、内蔵に詰まってしまったり、付着していた有害な化学物質が蓄積し死に至らしめるケースもあります。

 

 

世界中で問題視されるこの課題は、SDGs「目標14.海の豊かさを守ろう」にも掲げられています。海の汚染が深刻だと耳にしたことはあっても、実際に海を守るために何をすればよいか答えられる人は少ないかもしれません。私たちにも、プラスチックごみが海の生態系にどのように影響を与えているのかを学び、どうすれば海の豊かさを守れるのかを考えてみる必要がありそうです。

 

 

-参考-
WWFジャパン https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3776.html